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1,100石積(実積石数1,600石)北前型弁才船復元模型

縮尺:1/20所蔵:船の科学館
という判断はどうしてするのか、といった疑問は誰しも抱かれるに違いない。が、ここに歴史学的な研究方法による成果が生かされるのであって、弁才船の木割つまり各部の寸法的関係がきちんとなっているかどうかをみれば、的確な判断はできるのである。それに構造上の忠実さなどを考慮して良否をきめるのだが、筆者はその程度によってA〜Dの4ランクにわけることにしている。この場合、Aはほぼ全面的に基本的史料となるもの、Bはそれに準ずるもので、Cとなると肝心なところに不正確さがあって補助的史料でしかないもの、Dは前述の統尺も木割も無視し、構造的にも省略手法の多い既製品的模型で、技術史的には史料価値のないものとなる。これは換言すれば、模型は十分な史料批判なしに研究史料としてはならない、ということなのである。
それだけに、A、Bクラスの優秀な模型は文化財として大切にすべきなのであるが、これらは大体100年から300年という歳月を経てきている上に、社寺の軒下に吊り下げてあったなど保存条件も悪かったから、どうしても破損がひどくなっている。しかし、いくら破損していても、ここ20年来の技術史的研究によって復元考証が可能になっているので、破損による史料的価値の低下はさほどでもないといってよい。だから筆者は、A、Bクラスの模型の所蔵者には勝手な修理をしないようにアドバイスしているのである。
ところが、筆者が調査に行った時には、すでに修理ずみで手遅れだったという例が少なからず、その場合修理者はほとんどが船大工である。もちろん所蔵者や文化財関係者の依頼で修理しているのだが、そこには和船の船大工だから昔の船も正確に復元修理できる、という考え方があったに違いない。が、実はそれが誤解で、われわれ研究者にとってこれほど困ったことはないのである。それは初めに述べたように、今の船大工で弁才船を造った人はいないし、和船といってもせいぜい小型漁船などの経験しかなく、といって弁才船の技術史的研究をしているわけでもない。したがって弁才船模型の修理に必要な考証力は皆無に等しく、いきおい修理は自己流

 

 

 

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